「みんなでやれば怖くない」は間違いか?:『影響力の武器』チャルディーニ著 学術書評vol.14

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『影響力の武器』 ロバート・B・チャルディーニ、社会行動研究会訳、誠信書房、2007年。

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影響力の武器[第二版]―なぜ、人は動かされるのか
こんにちは、柏野尊徳です。

赤信号みんなで渡れば怖くない
集団行動の話が出る時に、よく紹介される表現ですね。

「みんながやっているから」という理由付けはかなり強力です。

でも、よく考えてみると不思議なことに気が付きます。
「みんながやっている」だけを理由に行動して大丈夫なのでしょうか?
その行動は、本当に自分が望んでいたものなのでしょうか。

今回紹介する本は、このような人間行動の不思議を科学的に解説した名著です。
その名も『影響力の武器』。

影響力の武器とは、人を動かす力のことです。

多くの人が、自分の行動は自分が決めていると考えているはずです。
でも、知らないところで原理やルールが働いていて「動かされている」場合があるのです。

著者はアメリカの大学で研究をしている心理学者ですが、いつも悪徳セールスマンに騙されていたのだとか。
「あいつらはどうやって俺を騙しているのだろうか?」と不思議に思い、研究した結果をまとめたのがこの本です。

本の中では、人を動かす影響力の武器として6つの要素が紹介されています。
「気がつくとまわりに流されている」
「今よりもっと自律的に生きていたい」
「人の行動原理を知りたい」
そんな人におすすめの一冊です。

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◆固定的行動パターン
『人間行動の原理としてよく知られているものの一つに、人に何か頼みごとをするときには理由を添えた方が成功しやすくなる、というのがあります。人は単純に、自分がすることに対して理由を欲しがるものなのです』(p.8)

『人間の行動の多くは自動的、紋切り型のものです。なぜなら、たいていの場合、それが最も効率的な行動の形態であり、また、場合によってはそうすることが必要でさえあるからです』(p.12)

コントラストの原理
『カクテルパーティーで最初に魅力的な人と話をして、次に魅力的でない人に会うと、その人は実際以上にみすぼらしく見えてしまうものです』(p.24)

◆社会的証明の原理
『(社会的証明の原理は、)私たちは他人が何を正しいと考えているかにもとづいて物事が正しいかどうかを判断する、というものです』(p.189)

『他者がどうしているかによって自分の行動が適切なものかどうかを判断する傾向は、通常の場合はうまく機能します。(中略)

これは行動の仕方を決める簡便な方略ではありますが、同時に、この方法を悪用して利益を得ようとする人の餌食になってしまうのです』(p.190)

バーテンダーは、よく、夜会が始まる前に何枚かのドル紙幣を見せ金としてチップに入れに混ぜておきます。それが、前に来た客が残したチップであると装い、お金をたたんでチップを払うのがバーにふさわしい行動であるという印象を作ろうとしているのです』(p.191)

『ナイトクラブの経営者のなかには、中に入れる余地がまだかなりあるのに、入場制限をして店の外に長い行列をつくらせる人がいます。目に見える社会的証明によって、自分たちの店の質の高さを示すブランドをでっちあげるのです』(p.192)

◆身を守るために・・・
『私たちは利用可能な関連情報をすべて利用するわけではなく、全体を代表するほんの一部の情報だけを使います。

こうした情報は、普通は正しい反応をするように私たちを導いてくれるのですが、賢い人に利用されると、自分が愚かな人間に見えてしまうような、明らかに馬鹿げた間違いをさせられてしまうのです』(p.434)

『私たちの手っ取り早い反応の信頼性を脅かすようなやり方で利益を得ようとするあらゆる試み、これこそが本当の裏切り行為であり、最も私たちが耐え難いものなのです』(p.443)

『戦うことなしに、ただ指をくわえて見ているわけにはいきません。失うものはあまりにも大きいのです』(p.444)


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『影響力の武器』 ロバート・B・チャルディーニ、社会行動研究会訳、誠信書房、2007年。

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◆著者◆
ロバート・B・チャルディーニ(Robert B. Cialdini)

米国を代表する社会心理学者の一人。現在、アリゾナ州立大学教授。社会的影響過程、援助行動、社会的規範などに関する数多くの業績で学界をリードしている。人の態度や行動を変化させる心理的な力について平易な語り口で解説する本書は、科学的知識に基づいて書かれた良書として専門家の間でも高い評価を受けており、米国でロングセラーとなっている。

◆目次◆
第1章 影響力の武器
第2章 返報性―昔からある「ギブ・アンド・テーク」だが
第3章 コミットメントと一貫性―心に住む小鬼
第4章 社会的証明―真実は私たちに
第5章 好意―優しい泥棒
第6章 権威―導かれる服従
第7章 希少性―わずかなものについての法則
第8章 手っとり早い影響力―自動化された時代の原始的な承諾

影響力の武器[第二版]―なぜ、人は動かされるのか