Yesマンはなぜ危険なのか?:『服従の心理』ミルグラム著 学術書評Vol.2

以前、ジム・キャリーが主演した『イエスマン』という映画がありました。
(⇒参考:イエスマン “YES”は人生のパスワード

友達の誘いもめんどくさいからすべて断るような主人公が、
ある日の出来事をきっかけに、何でもかんでもイエスと答えるようになります。
するとそれまでとは見違えるように人生が好転する。

・・・というのがこの映画の大枠です。

面白い映画でしたが、現実世界で何でもかんでもイエスというわけにはいきません。
例えば、上司の命令を何も考えずに

『上司の命令だから』
『自分より権威がある人が命令しているから』

という理由で言うことを聞く部下がいたらどうなるでしょうか?


もしかしたらその上司は不正を働き、
不正の隠蔽行為を部下に手伝わせようとしているのかもしれません。

『いやいや、犯罪行為だったらいくらイエスマンでも断るだろう』

そう思った方もきっといることと思います。

でも、驚くべきことに『権威に命令されたから』というただそれだけの理由で、
人は犯罪行為どころか殺人さえ起こす可能性があると明らかになっています。

その衝撃の実験報告を掲載しているのが、今回紹介する心理学の名著です。

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服従の心理』 スタンレー・ミルグラム著、山形浩生訳、河出書房新社、2008年。


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服従の心理
ハーバード大学社会心理学博士号を取得した、著者のスタンレー・ミルグラム
彼が行った服従実験は、文字通り世界に衝撃を与えました。


この実験のテーマはこうです。
『正当な権威が、第三者に害を及ぼすように支持したときに人はどう振舞うか?』


ここでは簡単に実験概要を説明します。

登場人物は3人。

1:権威のある人(実験者)
2:電撃を与える操作をする人(一般人)
3:電撃を与えられる人(実験者のサクラ)

まず、サクラがクイズに答えます。
答えを間違ったら権威ある実験者が一般人に命令し、電撃を与えるように命令します。

一般人は『これは記憶力と罰に関する実験だ』とウソの内容を伝えられています。
だから、一般人は『実験のため』と思い電撃を与えるのです。
その電撃は、サクラが間違えるたびに強さを上げることになっています。

しかし、実際には電撃は出ていません。サクラは痛がるフリをしているだけです。
サクラの身に危険はないのですが、一般人はそれを知りません。

おそらくどこかで『もうこんな実験はやめよう』というはずです。
ほとんどの人は、少し電撃レベルを上げただけでやめるだろうと思われていました。
ちょうど『もうこんな実験はやめたほうがいい』なんて言い出しながら。

・・・がしかし、その想像はあまりに現実とかけ離れていました。
なんと、割合にして3分の2の人が、最大の電撃レベルを与えるまで実験を続けたのです。

多くの人が『これは危険な行為である』と認識していたにもかかわらず、
その理解とは相反する行為をずっと行ない続けたことになります。

人は、権威に服従することで残虐な行為に手を染めることができる。
なぜなら、責任は自分ではなく権威にあると考えるからです。

そんな人間が持っているひとつの本性を、
データで客観的に明らかにしたのがこの本に書かれてある実験です。

この本を読むと様々な疑問が浮かびます。
例えば次のようなことです。

『盲目的に権威へ服従しない人間を育てるにはどうすればいいか?』
『人が責任感をもって行動するには、一体何が必要で何が不要なのか?』

学術書を読みなれていない人は、
若干読みにくいと感じる部分があるかもしれませんが、
原著が1974年に出版されて以来世界的に読まれてきた名著です。
得るものが大きいことは間違いなしです。

特に、今後組織内でリーダーシップを発揮したいと考えている人や、
既に管理職や経営者として権威ある立場の人にはおすすめです。


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『正当な権威が、第三者に害を及ぼすように支持したときに人はどう振舞うか?』(p.17)

『驚かされるのは、普通の個人がとんでもない段階まで
実験者の指示に従い続けるということだ。(中略)
多くの被験者は緊張を感じるし、実験者に講義する人も多いが、
相当部分は発生器の最高レベルまで電撃を与え続けるのだ』(p.17)

服従的な被験者でいちばん多い調整は、
自分が自分の行動に責任がないと考えることだ。
あらゆる主導権を、正当な権威である実験者に委ねることで、
自分は責任から逃れられる』(p.20)

『40人のうち、26人は最後まで実験者の指示に従って、
発生器最大の電撃に達するまで被害者を罰し続けた』(p.51)

『決定的な重要性を持つのは命令の中身ではなく、
その源が権威から発していることなのだ』(p.130)


◆どうやって自分の権威を伝えるか(pp.186-187)

 1:自分が権威だと名乗る
 2:権威にふさわしい服装を選ぶ
 3:競合する権威が他にいないことを示す
 その他:明らかにおかしな要素を排除する

『人が自分自身を組織構造に埋め込むと、
自律的な人物にとってかわる新しい生物が生まれ、
それは個人の道徳性という制約にはとらわれず、
人道的な抑制から解放され、権威からの懲罰しか気にかけなくなる』(p.247)

『命令が正当な権威からきていると感じる限り、
かなりの部分の人々は、行動の中身や良心の制約などにはとらわれることなく、
命じられた通りのことをしてしまうのだ』(p.248)


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服従の心理』 スタンレー・ミルグラム著、山形浩生訳、河出書房新社、2008年。


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◆目次◆

第1章 服従のジレンマ
第2章 検討方法
第3章 予想される行動
第4章 被害者との近接性
第5章 権威に直面した個人
第6章 さらなる変種やコントロール
第7章 権威に直面した個人 その2
第8章 役割の入れ替え
第9章 集団効果
第10章 なぜ服従するのかの分析
第11章 服従のプロセス - 分析を実験に適用する
第12章 緊張と非服従
第13章 別の理論 - 攻撃性がカギなのだろうか?
第14章 手法上の問題
第15章 エピローグ

服従の心理