信頼される人、されない人:『信頼の構造』山岸俊男著 学術書評Vol.3
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もしあなたが採用担当者だったとして、
どちらの人を選ぶでしょうか?
仮に能力・業績など、その他の条件が全く一緒だったら、周囲から信頼されているAさんを選ぶでしょう。
「信頼」があるかどうかは極めて重要な問題です。
・・・なーんて、当たり前のように書きましたが、
なぜ「信頼」はそこまで重要なのでしょうか。
ひとつの大きな理由として、
「世の中には信用できない人や、
人を騙して自分の利益を増やそうとする人もいるから」
と言うことができるでしょう。
当然ですが、
世界中の人がみんな誠実で、
誰も嘘をついたり人を騙したりしないのであれば、
そもそも「信頼」という概念は必要ありません。
仮に会社で言えば、
「取引先の信用調査は不要。
悪意のあるクレームをするお客さんは一人もいない。
泥棒なんて世の中にいないから会社のセキュリティーにお金をかけなくていい」
となるかもしれません。
しかし、現実は違います。
残念ながら、
思いもよらない悪事を働く人や、
誠実そうに見えて不公平な取引をしようとする人もいます。
このように、
周囲の人が誠実なのかどうかが不確実だからこそ、
その不確実な状況をカバーしてくれる「信頼」を
私たちは重視するわけです。
つまり、必要な情報が不足しているから、
信頼が求められ、信頼に価値が生まれるわけですね。
すると、もし他人に信頼されたいと思っているのであれば、
相手が足りないと思っている「必要な情報」を
いかに適切に提供できるかがカギになります。
このように、
信頼そのものが持つ社会的背景を考える上で
是非押さえておきたいのが今回紹介する一冊です。
タイトルはズバリ『信頼の構造』です。
既に見たように、
「信頼ってやっぱ大事だよね」といった常識的なことを述べるのではなく、
「そもそも信頼とは何か?」「なぜ信頼は必要なのか?」
といった信頼が抱える構造そのものに深く切り込んでいます。
他にも、
「アメリカ人と日本人を比較した場合、
アメリカ人の方が他人を信頼している傾向が強く、
実際の行動にもそれが反映されている」
といった興味深いデータも。(p.18、p.143)
正直、理解しづらい表現や
日常的でない比喩が出てきたりと
若干の読みにくさもあります。
でも、
「信頼の正体」について適切な理解をしたいのであれば、
絶対にこの本は外せません。
『信頼される人になりたいが、そもそも信頼ってなんだろう?』
『信頼されるには何が必要なんだろう?』
信頼について一歩掘り下げて考えたい人にとって、
この本は様々な発見・気づきを提供してくれるマストアイテムになるでしょう。
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▼ 学問の扉を開くチェックポイント ▼
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『あなたが恋人の浮気を発見して、すったもんだのあげく、
相手は心から後悔している様子を見せ、
「お願いだからもう一度やりなおすチャンスをください」と言ったとしよう。(中略)
もし相手が本当に信頼に値するのであれば、
相手を信頼してやり直した方が、
もう一度新しい相手を見つけることから始めるよりは、
幸せな関係を作ることのできる可能性が大きい。
しかし、相手が本心では後悔していなければ、(中略)
相手の言葉を信用しないで新しい相手を捜した方が、
幸せな関係を作ることのできる可能性が大きいだろう』(p.62)
『(本書では)他の相手からの有利なさそいを拒否して、
同じ相手との関係を継続する選択を
互いにしあっている場合に、その関係をコミットメント関係と呼ぶ』(p.65)
『コミットメント関係を継続するということは、とりもなおさず、
別の相手に乗り換えたら得られるはずの
余分の利益をあきらめることを意味している』(p.80)
『仲間うちで安心していられる関係に埋没していると、
人間一般に対する信頼が育ちにくくなる』(p.3)
『他者一般あるいは人間性一般を信頼するということは、(中略)
他人が信頼できるかどうかを見分けるための感受性とスキルを身につけた上で、
とりあえずは他人は信頼できるものと考えるゆとりをもつことだ』(p.8)
『一般的信頼は、社会的知性に裏打ちされた、
対人関係をうまく処理できるという自信に、他ならない』(p.183)
◆なぜ信頼が求められるか?
『信頼が必要とされるのは社会的不確実性の大きな状況であり、
逆に言えば、
相手に騙されてひどい目にあったりする可能性が全く存在しない(中略)状況では、
信頼は果たすべき役割を持たない』(p.15)
◆日本とアメリカにおける信頼
『社会環境や人間関係がより安定して永続的であり、
それらの関係が相互信頼によって成り立っている程度が
より強いように思われる日本社会での方が、
アメリカ社会でよりも、他者一般を信頼する傾向が低い』(p.19)
『1571人のアメリカ人サンプルと、
2,032人の日本人サンプルに対して質問紙調査が実施された。(中略)
「たいていの人は信頼できると思いますか、用心するにこしたことはないと思いますか」
という質問に対して、アメリカ人サンプルの47%が「信頼できる」と答えているのに対して、
日本人サンプルで「信頼できる」と答えているのは26%にすぎない』(p.18)
『アメリカ人参加者の方が日本人参加者よりも、
相手に対する信頼を必要とする行動をとる傾向が強い』(p.143)
◆他人の信頼性に敏感な人、鈍感な人
『特定の相手が信頼できるかどうかの手がかりになる情報に鈍感で、
特定の相手が実際に信頼に値する行動をとるかどうかをうまく予測できない人々は、
「人を見たら泥棒と思え」と決めつけてかかる傾向にある』(p.8)
『騙されやすい人というのは、
相手の信頼性が低いことを示唆する情報が存在するにもかかわらず、
そのような情報に気づかない人だと言える。
騙されにくい人は、相手が信頼できそうでないことを示す情報があれば、
その情報に敏感に気づくことのできる人である』(p.43)
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◆目次◆
1章 信頼のパラドックス
2章 信頼概念の整理
3章 信頼の「解き放ち」理論
4章 安心の日本、信頼のアメリカ
5章 信頼とコミットメント関係の形成
6章 社会的知性としての信頼
終章 開かれた社会の基盤を求めて