リーダーに必要なのは非道さか?:『君主論』マキアヴェリ著 学術書評vol.5

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君主論』 マキアヴェリ著、池田廉訳、中央公論新社、1995年。


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新訳 君主論 (中公文庫BIBLIO)
今回紹介するのは、政治学の古典。
イタリア人のマキアヴェリによる『君主論』です。

この本は「君主はどうあるべきか?」について書かれた、リーダー必見の本となっています。

ちなみに、彼の名前マキアヴェリから派生してできた言葉に、「マキャヴェリズム」というものがあります。

この言葉には、
「目的のためには手段を選ばない」
という意味が込められています。

実際に彼が残した言葉をみてみましょう。

『領土をしっかり確保するには、これまでの統治者の血統を根絶やしにしてしまえばことたりる』(p.16)
『民衆というものは頭をなでるか、消してしまうか、そのどちらかにしなければならない』(p.18)
『加害行為は、一気にやってしまわなくてはいけない』(p.58)
『君主は、野獣と人間をたくみに使いわけることが肝心である』(p.102)

16世紀に原著が出版された際も、【悪徳の書】として扱われ、
ローマ教皇庁はこの本を「禁書目録」に入れました。

たしかに、彼の本から
「結果が出れば、どんな手段をとっても構わない」といった、
冷徹非道な考えを読み取ることは可能かもしれません。

しかし、ここでは別の視点で彼の本を読み解いていきたいと思います。


◆リーダーに必要なのは非道さか?

この本は非常にわかりやすい言葉で、
君主(リーダー)に必要な心構えに触れることができます。

特に、15章~23章で展開される君主の資質に関する記述は、
時代背景を知らなくてもスムーズに読むことができます。

・・・が、実はこの本、そこが落とし穴でもあります。
わかりやすいがゆえに、マキアヴェリの真意を誤解してしまうのです。

それこそ、「君主は冷徹非道であるべきだ」といった具合に。

リーダーに必要なのは非道さではありません。
自分の役割に対する真摯さです。

「君主には君主の役割があり、
民衆には民衆の役割がある」ということです。

マキアヴェリは、
君主に課せられた役割は『国家の維持』であると考えていました。

すると、大事なのは
「仮に敵から攻め込まれる事態に陥っても、
国家を守ることができるかどうか」になります。

「民衆に愛されているか、それとも怖がられているのか」
といったことは二の次でいいのです。

もし民衆全員から愛される性格の持ち主であっても、
有事に国を崩壊へ導いてしまうのであれば、
その人を君主とは呼べないでしょう。

チームや会社全体のリーダーに置き換えてみても同じです。
リーダーは、メンバーと仲良くワイワイやっていればそれでいいのでしょうか。

・・・違います。

リーダーにしかできないことがあるからこそ、
その人はリーダーとしてのポジションにいるのです。

リーダーに必要なのは非道さではありません。
自らの役割を果すための真摯さなのです。

時には極めて強欲な人物に見られたり、
行動がスマートでないと思われるかもしれません。
しかし、それでいいのです。

リーダーとして冷徹さが必要であれば、躊躇することなく冷徹になる。
寛大さが必要であれば、過去のわだかまりなど気にもとめず寛大に対応する。

自分の役割を果すためには、
長期的な視野で、臨機応変に行動することが必要です。

もちろん、自分の役割に徹することは容易ではありません。
しかし、成果を出すためには避けて通れない道なのです。

どんな時代であっても、
その道を通るために必要なリーダーとしての心構え。

この『君主論』には、
そのためのヒントがたくさん詰まっています。


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『国を維持するためには、信義に反したり、
慈悲にそむいたり、人間味を失ったり、
宗教にそむく行為をも、たびたびやらねばならないことを、
あなたには知っておいてほしい』(p.105)

『決断力のない君主は、当面の危機を回避しようとするあまり、
多くのばあい中立の道を選ぶ。
そして、おおかたの君主が滅んでいく』(p.132)

『君主は、つねに人の意見を聴かなくてはいけないが、
これは他人が言いたいときにそうするのでなく、
自分が望むときに聴くべきである』(p.138)

『よい意見は君主の思慮から生まれるものでなければならない。
よい助言から、君主の思慮が生まれてはならない』(p.140)

『総じて人間は、手にとって触れるよりも、目で見たことだけで判断してしまう。(中略)
だから、君主は戦いに勝ち、そしてひたすら国を維持して欲しい』(pp.105-106)

『名君は、たんに目先の不和だけでなく、
遠い将来の不和についても心をくばるべきであり、
あらゆる努力をかたむけて、将来の紛争にそなえておくべきだ』(p.20)

『運命の風向きと、事態の変化の命じるがままに、
変幻自在の心がまえを持つ必要がある。(中略)
必要にせまられれば、悪にふみこんでいくことも心得ておかなければいけない』(p.105)

『時勢とともに、自分のやり方を一致させた人は成功し、
逆に、時代と自分の行き方がかみ合わない者は不幸になる』(p.144)

『もし、慎重に、忍耐づよく国を治める君主が、
時代や状況の動きと政治がうまく合っていれば繁栄へと向かう』(p.145)


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君主論』 マキアヴェリ著、池田廉訳、中央公論新社、1995年。


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◆目次◆

献辞
1 君主国にはどんな種類があり、その国々はどのような手段で征服されたか
2 世襲の君主国
3 混成型の君主国
4 アレクサンドロス大王が征服したダレイオス王国は、大王の死後も、後継者への謀反が起きなかった。その理由はどこにあるのか
5 都市、あるいは国を治めるにあたって、征服以前に、民衆が自治のもとで暮らしてきたばあい、どうすればよいか
6 自分の武力や力量によって、手に入れた新君主国について
7 他人の武力や運によって、手に入れた新君主国について
8 悪らつな行為によって、君主の地位をつかんだ人々
9 市民型の君主国
10 さまざまな君主国の戦力を、どのように推しはかるか
11 教会君主国
12 武力の種類、なかでも傭兵軍
13 外国支援軍、混成軍、自国軍
14 軍備についての、君主の責務
15 人間、ことに世の君主の、毀誉褒貶はなにによるのか
16 鷹揚(おうよう)さと吝嗇(りんしょく)
17 冷酷さと憐れみぶかさ。恐れられるのと愛されるのと、さてどちらがよいか
18 君主たるもの、どう信義を守るべきか
19 君主は軽蔑され憎まれるのを、どう避けるか
20 君主たちが日夜築く城塞や、その類のものは有益か、有害か
21 君主が衆望を集めるには、どのように振るまうべきか
22 君主が側近にえらぶ秘書官
23 へつらう者をどのように避けるか
24 イタリアの君主たちが、領土を失ったのはなぜか
25 運命は人間の行動にどれほどの力をもつか、運命に対してどう抵抗したらよいか
26 イタリアを手中におさめ、外敵からの解放を激励して

新訳 君主論 (中公文庫BIBLIO)