好みを口にすればするほど、願いが叶わなくなる理由:『単純接触効果研究の最前線』宮本聡介・太田信夫

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『単純接触効果研究の最前線』 宮本聡介・太田信夫編著、北大路書房、2008年。


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単純接触効果研究の最前線
『特に好きな曲でもなかったが、
繰り返し来ているうちに好きになった』

そんな経験はないでしょうか。

これは、ある対象に触れる機会が増えた結果、
その対象を好きになったといえます。

もちろん、聴き続けても飽きる曲もあるでしょう。
もしくは始めから嫌いな曲だとしたら、
そう簡単に好きにはなれないかもしれません。

とはいえ、「単に接触を繰り返すだけで好感度が高まる」ことは
興味深い現象ですよね。

このように、『対象への単純な繰り返し接触が、
その対象に対する好意度を高める現象(p.2)』を、
心理学では「単純接触効果」と言います。

今回紹介するのは、「単純接触効果」における
これまでの研究をまとめて紹介した本です。

個人的に最も印象的だったのが、
自分が好きなも物や異性を「どうして好きなのか」に関する話です。

多くの場合、
「私が〇〇を好きなのは、○○は□□だから」と各自にそれぞれの理由があると思います。

しかし、自分が自覚している理由は、
しばしば実際の理由とかけ離れているそうです。(p.63)

どうやら、人は説明を求められたときに、
真の原因ではなく、身近に説明しやすい現象を理由をあげて、
「自分は○○が好きだ」と考えてしまうようです。

つまり、何が好きか嫌いかといった「結果」は正しく認識できても、
そうなる「過程」は正しく認識できないということですね。

この現象について知ったとき、
「自分の好みを意識して考えれば考えるほど、
満足できない選択をしてしまうのでは?」
と思いました。

例えば、「自分は優しい人が好きだ」と思っているAさんがいたとします。
でも実際は「頼れる人」に好意を抱くようです。

すると、Aさんが自分の好みだと誤解している「優しい人」を求める限り、
本当に自分が好きな人から、Aさんは遠ざかってしまうことになります。

実際、本の中にもそのことも書いてありました。

『何が重要なのかわからなければ、
理由を分析・記述することで、選択者は自分自身を混乱させてしまう』(p.67)

これは色々と考えさせられる研究報告ですね。

他にも、
IQが高まると話題になったモーツァルト効果の是非、
広告を含め、マーケティングにおいて主流だったAIDMAモデルがもつ限界の指摘、
その他香りや味覚に関する研究などなど。

実に多岐にわたって興味深い研究が紹介されています。

社会心理学認知心理学に興味のある人や
人間が普段何に影響されて行動しているのか、
その理由の一部を詳しく知りたい人におすすめです。


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『対象への単純な繰り返し接触がその対象に対する好意度を高める現象を
単純接触効果(mere exposure effect)という』(p.2)

『154の反意語ペア(able-unable, better-worseなど ※一部省略)を
100人の回答者に提示し、
より好ましい意味をもつほうの単語を選択するように求めた。

好ましいとされた単語の使用頻度と、好ましくないとされた単語の使用頻度を、
L-count(Thorndike & Lorge, 1994)という既存の指標と照らしながら比較したところ、
126ペアで、好ましいとされた単語の使用頻度が
好ましくないとされた単語の使用頻度を上回っていた。(中略)
接触頻度の多い単語がより好ましい単語であると
判断される傾向があると示されたことになる』(p.4)

『バーライン(Berlyne, 1970)は、
複雑な絵と単純な絵の反復提示実験を行ったところ複雑さの主効果が見られ、
複雑な絵のほうが高い好感度が得られることを示した』(p.5)

『知覚的流暢性誤帰属説の基本的な考え方は、以下のとおりである。
ある対象への反復接触によって、
その対象を知覚するときにより流暢に処理がなされるようになる。
この流暢性の起源は反復接触にあるのだが、
しかしそれが誤って対象の印象や対象への好意、好みへと帰属される。
すると、その流暢性が帰属されたぶん、
その対象によりよい印象や好意を感じるようになる』(p.26)

『多くの場合、選択や好みの理由をたずねたとき、
回答者はいかにももっともらしい理由を述べることができる。
しかし、そのような言語報告はしばしば、
実際の原因とかけ離れていることが多くの研究で確認され
(レビューとして、Nisbett & Wilson, 1997)、
回答者の自己報告に頼った調査の限界や問題点が指摘されている』(p.63)

『理由を報告するように求められたとき、
いかにも原因のように見え、言葉に表すのが容易で、
記憶の中で利用しやすい要因に注目する傾向があることが見出されている
(Wilson & Schooler, 1991 ;Wilson et al., 1995 ;Wilson et al., 1993)』 (p.65)

『商品選択などの意思決定課題において、選択肢への好みを意識的に吟味した群は、
吟味しなかった群と比べ、選択の質や満足が低下する
(Wilson et al., 1993; Dijksterhuis et al., 2006)』 (p.65)


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『単純接触効果研究の最前線』 宮本聡介・太田信夫編著、北大路書房、2008年。


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◆目次◆
I 単純接触効果研究史
1章 1970年代
2章 1980年代以降

II 単純接触効果のメカニズム
3章 知覚的流暢性誤帰属説
4章 単純接触効果と概念形成
5章 単純接触効果と潜在学習
6章 単純接触効果と意思決定

III 単純接触効果と周辺領域
7章 感性研究と単純接触効果
8章 文化心理学と単純接触効果
9章 音楽心理学と単純接触効果

IV 単純接触効果と日常生活
10章 広告の効果
11章 言語の単純接触効果
12章 衣服の単純接触効果
13章 香りの単純接触効果
14章 味覚における単純接触効果


単純接触効果研究の最前線