『ポジティブ・サイコロジー』クリストファー・ピーターソン著 学術書評vol.10

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『ポジティブ・サイコロジー』 クリストファー・ピーターソン著、宇野カオリ訳、春秋社、2010年。

(原書:A Primer in Positive Psychology, 2006)

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実践入門 ポジティブ・サイコロジー 「よい生き方」を科学的に考える方法
こんにちは、柏野尊徳です。

「幸せな生き方」と「不幸でない生き方」。
どちらかひとつだけ知ることができるなら、どちらを知りたいですか?

もし、あなたの答えが「幸せな生き方」であれば、おすすめの本があります。
それが今回紹介する『ポジティブ・サイコロジー』です。

ポジティブサイコロジーは、
簡単に言うと「幸せな生き方」について探求する学問領域です。
一般的には「ポジティブ心理学」とか「肯定心理学」と呼ばれています。

実は、10年ほど前まで「幸せ(=心の健康)」の研究は本格的にされていませんでした。
基本的に「心の病」の治療に焦点が当たっていたのです。

この流れは1998年にアメリカで変化し、
心の健康である「幸せ」にも焦点を当たるようになりました。
そのような経緯から「ポジティブ心理学」という名前が付いたのです。

この本では、「ポジティブ心理学ってそもそも何?」といった話から、
「『幸せ』ってつまりどういうこと?」という普段見落としてしまいそうな話、
実際に幸せを味わうために有益な11個の具体的エクササイズまで、
ポジティブ心理学の入門書としてふさわしい内容になっています。

他にも、自分の強み発見テストができるURLや、
ポジティブな人間関係に必要なもの、
自分の能力を活かすにはどうすればいいかに関するヒントまで、
実に様々な観点からポジティブ心理学を紹介しています。

当然その全てに目を通した方が理解も深まりますが、
この本は全部で420ページ。
まずは目次を眺め、興味のあるところから「つまみ食いすること」をおすすめします。

それでも何らかの刺激は得られるし、
もしかしたら気がつくと全部読み終えている人の方が多いかもしれません。


・・・と本当にお薦めの本ですが、
実はこの本には不満な部分もあります。

それは、参考文献一覧と、
本の中に出てくる心理学者の索引が全てカットされていること。
これは正直いただけない。

なぜなら、本のオビに「ポジティブ心理学入門の決定版」と書いてある通り、
この本はポジティブ心理学の入門書として書かれた本。

それにもかかわらず、興味ある心理学者や心理学の理論を見つけても
「それがどの本に詳しく書かれているのか」わからないのです。
つまり、次のステップに進むことが難しい。

もしかしたら、読みやすさを重視しようという意図があったのかもしれません。
その他出版上の都合で仕方ないことだったのかもしれません。
しかし、どうも読者のことをあまり考えてないのではと思えます。

訳者あとがきに『米国の高等教育機関で主要教科書として採用されている』(p.413)
といった記載がかえってむなしいし、
カバーそで部分にある『人事担当・マーケティング担当必読』と、
いかにも取ってつけたような紹介文の存在。

要するに、本の作りが中途半端なのです。

しかし、本の価値を著しく下げている要素がありながらも、
間違いなくポジティブ心理学の概要を知る上では最適な本です。

「心理学に興味はあるけど、何から読めばいいのかわからない」
「幸せになる科学的な方法って、一体どんな内容なんだろうか」
そんな方におすすめです。

なお、英語が苦でないのなら、読むべきは翻訳本ではなく原著。
- 元のメッセージを隠す -
アマゾンで「なか見検索」もできるので、気軽に本の中を覗いてみてください。

※参考:Peterson, C. (2006), A Primer in Positive Psychology, Oxford University Press
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0195188330/kashinon-22/ref=nosim/


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▼ 学問の扉を開くチェックポイント ▼
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ポジティブ心理学とは、私たちが生まれてから死ぬまで、
またその間のあらゆる出来事について、
人生でよい方向に向かうことについて科学的に研究する学問である』(p.4)

◆エクササイズ1 -自分の「遺産」を書いてみる

『自分のこれからの人生がどのようなものであってほしいかを考え、
亡き後は最も親しみやすい人々に
自分がどのような人間として記憶されたいかを考えてみてほしいのだ。
その人たちはあなたのどんな業績について語ってくれるだろうか?
その人たちはあなた自身のどんな強みを列挙してくれるだろうか?
ようするに、あなたの遺産は何だろうか?』(pp.26-27)


◆幸せとは??

『真の幸せとは、自分の美徳を見つけ、それを育み、
その美徳にしたがって生きることで生み出される』(p.104)

『人は自分における最高のものを開拓すべきであり、
その上で特に他人もしくは大きく人類の福祉を含むより大きな善に奉仕するために
自分のスキルや才能を使うべきだ』(p.105)

『人が満足を得るためには、
少なくとも一つの幸せを追求する道が必要となる』(p.106)


◆ポジティブ思考あれこれ

『若い時に「よい」考え方をする者は、
35年後にも「良好な」状態にあることが予測された。
若者が楽観的であればあるほど、
数十年後にも良好な健康状態にある傾向が強いことが判明した。
楽観性と良好な健康状態との相関関係はすぐには明らかにならなかったが、
最初にその相関が現れたのはその男性たちが40歳のときで、
45歳で最も頑健なレベルに達した(r=0.37)』(p.142)

『1900年(マッキンリー対ブライアン)から1984年(レーガン対モンデール)まで、
ネガティブな事柄にあまり集中せずにより多くの楽観を表明した候補者が、
22の選挙のうち18の選挙で勝利した』(p.143)

『人は困難に直面してでも目標を達成できると信じるものだろうか?
そう信じることができればその人は楽観的であり、
信じられないようであれば悲観的である。
楽観は目標に到達するための継続的な努力に繋がるが、
悲観は諦めに繋がる』(p.154)


◆公平理論(・・・しかしそれが全てではない)

『公平な関係は持続し、不公平な関係は崩壊する。(中略)
誰でも、自分の誕生日を覚えてくれない人や、折り返し電話するのを怠る人、
自分を陰口から擁護してくれない人を友人に持つことはあるだろう(中略)
これは不安定な関係であるから、何かが変わらなければならない。
友人がもっと何かをしてくれる必要があるか、
または自分が何かをしてあげることをもっと控えるか、
そうでなければこうした関係に未来はない。
公平理論は、自分が他者と交流する際に関わる
損失と利益とを計算することを前提とする』(p.321)

『だが、公平理論には限界があり、
あらゆる愛の形について説明できるだけの力はない。
献身的な愛や利他的行為などは代償的な期待感による行為ではないため、
公平理論では結局のところ説明できない(中略)

何度もくり返すが、心は頭に勝る。
友人や配偶者を持つのは、
その人たちが自分にとって益になると「考える」からではなく、
自分がその人たちを愛しているからであろう』(pp.324-325)


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『ポジティブ・サイコロジー』 クリストファー・ピーターソン著、宇野カオリ訳、春秋社、2010年。

(原書:A Primer in Positive Psychology, 2006)

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◆目次◆
第1章 ポジティブ心理学とは何か?
第2章 ポジティブ心理学について学ぶとは─スポーツ観戦ではないということ
第3章 気持ちよさとポジティブな経験
第4章 幸せ
第5章 ポジティブ思考
第6章 強みとしての徳性
第7章 価値観
第8章 興味、能力、達成
第9章 ウェルネス
第10章 ポジティブな対人関係
第11章 よい制度
第12章 ポジティブ心理学の未来

実践入門 ポジティブ・サイコロジー 「よい生き方」を科学的に考える方法