自ら奴隷になる方がいい?:『社会契約論』 ジャン=ジャック・ルソー 学術書評vol.12

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『社会契約論』 ジャン=ジャック・ルソー中山元訳、光文社、2008年。

 
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社会契約論/ジュネーヴ草稿 (光文社古典新訳文庫)
こんにちは、柏野尊徳です。

大量の仕事に追われているビジネスマン。
締め切り間際の課題に追われる大学生。

中には、自分の事を「まるで奴隷のようだ」と感じる人がいるかもしれません。

では、仕事が少なくなれば、自由になれるのでしょうか。
目の前の仕事が全て終われば、それで本当に自由になれるのでしょうか。

自由になったと思えても、実は見えない鎖につながれているのではないか。
私達人間は、本当に自由になることができるのか…。

そんな話に興味がある人なら、おすすめの一冊があります。
ジャン=ジャック・ルソーによる『社会契約論』です。

「学校のテストで名前は覚えたが、読んだことはない」という人が結構いるかもしれません。
前回紹介した『古事記』みたいなもんですね。

古事記』は日本の成り立ちについて書かれた本ですが、ルソーの『社会契約論』は国家の成り立ちや在り方について書かれています。

正直「政治の話に全く興味がない人」にはつまらない本でしょう。
それでも、以下の様な「自由や奴隷」に関する話に引っかかるものがあるなら、それなりに楽しんで読めると思います。

・人間は自由である…と思いたいが、実際は色々な鎖にしばられている
・人は幸せを求めるが、何が自分にとって幸せなのかはわからない
・他人の奴隷になるよりは、自らの意志の奴隷になる方がよい

もちろん、「一般意志」をはじめとする国家や人民主権に関する話に興味がある人なら、文句なしにおすすめの名著です。

今回紹介している本の訳は、比較的読みやすい文体になっています。
読書の秋に読む、教養を深める一冊としていかがでしょうか。


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『人は自由なものとして生まれたのに、いたるところで鎖につながれている』(p.18)

『自分の自由を放棄するということは、人間としての資格を放棄することであり、人間のさまざまな権利を、そして義務すら放棄することである』(p.30)

『他人を犠牲にしても自分の生命を守ってもらおうとする者は、必要な場合には他人のために自分の生命を与えねばならない』(p.76)

『公衆は幸福を望んでいるが、それが何であるかを理解できない。どちらにも導き手が必要なのだ』(p.86)

『賢者たちが大衆に向かって、大衆の言葉ではなく、賢者の言葉で語ろうとしても、大衆は耳を傾けないだろう』(p.91)

『あらゆる立法の体系は、すべての人々の最大幸福を目的とすべきであるが、この最大の幸福とは正確には何を意味するかを探ってゆくと、二つの主要な目標、すなわち自由と平等に帰着することがわかる』(p.110)

『もっとも賢明な人々が多数者を支配するという[貴族政の]政体は、支配する者が自分たちの利益を目指すのでなく、多数者の利益のために支配することがたしかな場合には、もっとも優れた秩序なのである』(p.142)

『悪しき政府のもとでは耐え忍ぶしかないことは、誰でも知っていることだ。問題は、どうすれば善き政府をみつけることができるかということなのだ』(p.155)

『政府が堕落するには、一般に二つの道がある。政府が縮小して堕落する道と、国家が解体する道である』(p.173)

『政治体の本質は、服従と自由が一致することである』(p.185)

『イギリスの人民はみずからを自由だと考えているが、それは大きな思い違いである。
自由なのは、議会の議員を選挙するあいだだけであり、議員の選挙が終われば人民ももはや奴隷であり、無にひとしいものになる』(p.192)


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『社会契約論』 ジャン=ジャック・ルソー中山元訳、光文社、2008年。

 
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◆目次◆
社会契約論(最初の社会/最強者の権利について/奴隷制度について/つねに最初の合意に溯るべきこと/社会契約について ほか)
ジュネーブ草稿(社会体の基本的な概念/法の制定/国家法または政府の制度)

社会契約論/ジュネーヴ草稿 (光文社古典新訳文庫)