イノベーションは外の世界で起きる 〜P.F. ドラッカー『イノベーションと企業家精神』〜


2013年からスタートした、デザイン思考実践者のためのニュースレター


デザイン思考家のためのニュースレター
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1月号の中から、自分が担当しているコーナーの内容を紹介します。

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 今回紹介するのはP.F.ドラッカーの『イノベーションと企業家精神』です。原著は1985年に出版されましたDrucker, P.F., Innovation and Entrepreneurship, Harper & Row。必読書という意味で、イノベーション実践の古典と言えるでしょう。

 この本で紹介されているのは、イノベーションを起こすための7つの機会や、ベンチャーが成功するために欠かせない4つの原則などです。詳細は本を読んで頂くことして、今回は「イノベーション」そのものについて学びたいと思います。

イノベーションと企業家精神 by P.F.ドラッカー
P.F.ドラッカー著/上田惇生訳/ダイヤモンド社/定価2,100円(税込)

イノベーションとは何か?
 イノベーションを日本語に訳すと技術革新です。この言葉を聞くと「イノベーションは技術からスタートする」「技術者や科学者がイノベーションを起こす」と感じるかも知れません。しかしドラッカーは「イノベーションは技術の専売特許ではない」と言います。

 それでは彼はイノベーションをどう定義しているのでしょうか。ドラッカーによれば「存在する資源に対して、新たな富を生み出す能力を与えるもの」がイノベーションです。

 それまで存在を認識されながら無視されていたものや、誰も気づいていなかった埋もれた資源を、価値あるものへと変えることでイノベーションが起きます。


顧客の知覚がイノベーションのカギ
 顧客の視点に立ってイノベーションを表現し直すなら「既にある資源(技術・知識など)から得られる価値や満足を、全く新しいものに代えて提供するもの」になります。

 ここから「イノベーション実践において重要なのは顧客の知覚だ」とわかります。組織が「これはイノベーションだ」と思っていても、人々が「イノベーションである」と認識しなければそれはイノベーションにはなりません。
 
 文字にするとわざわざ言うまでもないように聞こえますが、実際のケースではこの視点が後回しになりがちです。「技術革新」としてイノベーションは訳されましたが、技術や知識といった「組織が持っているもの」からスタートしても、イノベーションは起きません。

 イノベーションは外部に対する成果です。もちろん、イノベーションのためには企業や企業家が様々な資源を投下する必要があります。しかし、ユーザーや市場や社会がそれを受け入れた時に、初めてそれがイノベーションとなるのです。


外の世界を知ることから始まる
 外部に対する認識の欠如がイノベーションの失敗を招きます。最新の技術や優れたビジネスモデルの存在よりも、顧客や市場や社会が価値を認める内容であるかどうかの方が重要です。

 デザイン思考は他者への共感からスタートします。外の世界を知った上で、自分たちは何ができるのか、どんな価値を提供すべきなのか。その認識が組織内で共有されてから、初めて技術や知識、ビジネスモデルや戦略が生きてきます。

 英語に「歩く前に這うことを学ぶ必要がある(You Have To Learn To Crawl Before You Learn To Walk.)」=「ものには順序がある」ということわざがあります。イノベーションにも同じです。

 どのような順番で、何をすべきなのか。基本を学びたい人は是非読んでみて下さい。